【うたた寝日和】










「ねぇ霖之助さん」

「ん?」

 麗らかな日差しが心地良いとある昼下がり。何時ものように勝手に茶を入れて勝手に呑んでいた大体勝手な紅白の巫女が、ふと思い出したように僕の方に振り向いてきた。何やら彼女らしからぬ神妙な顔をしている。はて、一体何の用だろうか?

「ちょっとお願いがあるんだけど……良いかしら?」

「お願い?」

 その言葉に、僕は思わず小首を傾げてしまう。まさか彼女から『お願い』なんて言葉が出てくるとは、予想だにしていなかったのだ。魔理沙ほどではないとはいえ、彼女も結構強引で勝手な所があるからな。今正に、僕に断る事無くお茶を勝手に淹れて呑んでるように。
 そんな彼女が態々お願いと言ってきたのだから、もしかしたら重要な事なのかもしれない。とりあえず、聞いてやる事にしよう。

「あ、そのままで良いわよ。動かないでじっとしててね」

「……? あぁ」

 僕が肯定の意思を見せると、霊夢はそう言ってトコトコと僕の方に歩いてくる。……そして、

「…………霊夢、これは?」

 ぽすん、と彼女は僕の膝の上に腰掛けてきた。思いもよらぬ彼女の行動に、僕の思考を混乱が一瞬襲う。一体どういうつもりなのだろうか? 『んー』とか『ふぅん……』とか一人で納得している様子の霊夢に訊ねてみると、

「霖之助さんって、良く魔理沙をこうして膝に乗せてたでしょう?」

「……どちらかというと、あいつの方が勝手に乗ってきたんだがな」

 最近は流石に少なくなってきたが、昔……魔理沙がまだ幼かった頃は、彼女が此処に遊びに来る度に僕の膝の上に乗っかっていた気がする。何が面白いのやら……それこそ帰るまでだ。時には家に帰りたがらずにしがみつく様にしていたのも、今となっては良い思い出……のような気もするな。

「それで、その時の魔理沙がやたらと気持ち良さそうな表情してたもんだから、ずっと気になってたのよ」

「それで、こうして態々試してみた、って訳か?」

「まぁ、そういう事ね」

 なるほど、その理由は解らないでもなかった。だが、それならばそうと先に言えば良いものを……。まぁ、実際に先に言われたとしたら、きっと僕は首を縦には振らなかっただろうが。

「……それで? ご感想は?」

「悪くないわね。中々の座り心地よ」

「それはそれは……お誉めに預かり恐悦至極。……で、何時までそうしているんだい?」

「んー、もう少しね」

 んふー、と気持ち良さそうに口元を緩める霊夢の姿に、僕はやれやれと小さく息を吐く。まったく……霊夢にしろ魔理沙にしろ、何が面白いんだか……。とはいえ、彼女達のそんな表情を見るのは、決して嫌なものではないのも、また事実だったりする。魔理沙は無論霊夢とも付き合いは決して短いものではなく、僕の彼女達への感情は、半ば親のようなものですらあった。

「はぁ……」

 そう思うと、こうして無防備に僕の胸に背を預けてくる霊夢を押しのける気が、とてもではないが起きなくなる。もう少し好きにさせてやるとしよう。そんな事を思いながら、僕はもう一度小さく息を吐くのであった。





 ――そして、どれくらい経った頃であろうか。

「……なぁ、れい……む?」

 幾ら相手が少女とはいえ、ずっと乗せていればそりゃあ流石に疲れる。実際問題、何だか僕の脚も徐々に痺れてきたような気がするしな。霊夢ももう充分堪能した事だろうし、そろそろ降りてほしいものである。……そう思って声を掛けたのだが、

「すぅ……すぅ……」

 寝ていた。思いっきり。何時の間に、と思うものの、考えてみれば確かに最初は色々と話をしていたが、何時の間にか霊夢からの言葉が殆どなくなっていたようにも思う。どうやら、何時もの悪い癖が出てしまったようだ。自分の思考に没頭して、周りが見えなくなっていたらしい。

「やれやれ……」

 こうなってしまっては仕方ない。態々起こしてやるのも気が引けるし、もう少しこのままでいさせてやるか。……そうしているうちに、やがて僕の方にも睡魔の軍勢がゆっくりと這い寄って来た。得にする事がない……というか、状況が状況だけに碌に出来る事がない僕は、あっさりと降伏の白旗を上げる。
 胸元から伝わる霊夢の体温を感じながら、僕の意識はほどなく闇へと落ちて行くのであった……。





 ――その後、目が覚めた僕の真正面に、何故か涙目でミニ八卦炉を構えた魔理沙がいたのは、また別の話。…………理不尽だ。









2010/4/15:執筆
2010/4/17:掲載






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