【彼女が制服を着たのなら】










「――こ、こんな感じでどうかしら……?」

「……ほぉ」

 普段の快活さからは想像も出来ない、蚊の鳴くような声で恐る恐る、僕を見上げてきたのは、晴天のように蒼い髪が目を引く少女――比那名居天子だ。しかしその身に纏うのは、普段見慣れた白のブラウスと青いスカートではなく、この幻想郷では見慣れない、しかし僕的には割と見慣れた服装であった。

「ほぉ、だけじゃなくてもっと何か言いなさいよッ!?」

「いやなに、思っていた以上に似合っていたものでね。思わず感心してしまった」

 林檎よりも尚顔を真っ赤に染め上げて、彼女は声を張り上げる。しかし羞恥の念の方が大きいのだろう。すぐに『うぅ〜』っと呻き始めてしまった。その普段余り見慣れない反応が、今の服装と相まって非常に可愛らしく感じられる。

「うぅ……こう短いスカートだとなんだか落ち着かないわ。なんかスースーするぅ……。外の世界の連中は良くもこんな服を着れるわね……」

 恥ずかしげに、まるで少しでも隠す範囲を広げるように、彼女は茶色を主体としたチェック模様のミニスカートを下へと引っ張っていた。その様が、逆に僕の視線を彼女の普段余り晒されない為か、やけに白い太腿へと導かれてしまい……少し、気まずい気分になる。

「……本来はもう少し長いらしいけどね。しかしそれが流行りなのか、短くする者も少なくないそうだ」

 そんな気分を払拭する為、僕は改めて彼女の全身に眺める。頭に被っている桃飾りのついた黒い帽子は何時も通りだが、上着には白いシャツと赤いネクタイ。そして紺のブレザー。下には先にも言った通り、茶色のチェックスカートである。
 主にスクールブレザーなどと呼ばれる、外の世界で寺小屋に通う者が着る服であった。

「……それにしても、霖之助も結構に合ってるんじゃない?」

 慣れない格好による気恥ずかしさを少しでも紛らわせる為か、天子は僕の方へと視線を向けてくる。彼女の言葉通り、やはり僕も普段の恰好ではなく、彼女と同様にスクールブレザーを着ていた。……と言っても、彼女と違って僕のは男性用である。当り前だ。
 上着のシャツとネクタイとブレザーは男女共に同じものだが、下は女性用がスカートなのに対して男性用がズボンである。

「そうかな? 僕では些か無理があるような気がするが……」

 実年齢は兎も角、僕は見掛けだけならば普通の人間の二十代前半から半ばと言った所だろう。それでも子の恰好をするには少々無理があるというもの。本来この服は十代半ばの人間が着るものなのだ。一方、実年齢、という点では天子も僕と同様だが、見た目的には彼女は充分に条件を満たしているのだから、それなりに似合うのも当然というべきか。

「んー、何か失礼な事思われた気がするわ」

「……まさか」

 女の勘恐ろしや。……しかし彼女も大して気にしていないのだろう。すぐにジト目を止め、何か考え事をするように頬に指をちょこんと当てる。

「まぁ良いわ。……でもそれは外の世界の話でしょう? こっちじゃこういうのも一般的じゃないし、気にならないわよ。……それに、霖之助ってちょっと童顔っぽいからね。外の世界でも割と大丈夫なんじゃない?」

「そんなものかなぁ……?」

 まるでフォローになっていない気がするが……そんな事を思っているうちに、天子の方は恥ずかしさが抜けてきたのだろう。未だ頬は仄かに染まったままだが、楽しげに鼻歌を吹かしながらクルリとその場で一回転して見せた。その動きに合わせて、短いスカートがふわりと揺れる。やれやれ、はしたない。……そう思いつつも、視線が自然とそれを追ってしまう辺り、僕も男という事だろうか?

「ん〜、慣れてくるとこれも中々悪くないわねェ。ほらほら、二人で並んだら結構絵になるんじゃない?」

「……おいおい」

 如何にも楽しげな、満面の笑みを浮かべながら腕を組んでくる天子に、僕は苦笑を零さざるを得ない。……まぁ、彼女が喜んでいるのならそれで良いのだろう。多分。……そんな事を思いながら、僕も彼女へと小さく笑みを返すのであった。





 ――その後、偶々来店した山の巫女がこのコスプレ大会in香霖堂を見て大爆笑し、ついでに烏天狗に写真まで撮られていた事が発覚したのは、また別のお話。









2010/4/18:執筆
2010/6/2:掲載






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